国連ハビタットは、都市とまちづくりの国連機関です。世界の全ての人々に適切な住まいを確保することを使命としています。国連ハビタット福岡事務所は、アジア太平洋地域事務所として、アフガニスタン、カンボジアなど28カ国を管轄し、貧困に負けないまちづくり、紛争後のまちづくりなど様々な活動を行っています。特に昨年12月に発生したインドネシア・スマトラ沖地震・津波に対しても、インドネシアやスリランカなどにおいて、積極的に緊急支援活動や復興事業を行っております。そして、本来管轄地域外ではありますが、同事務所が積極的に支援事業を進めているのが、イラクです。          
 
国連ハビタットによる
日本政府支援イラク復興再建事業
       
         
       
 
    まちづくり通信・イラク特集号Vol.1でもご紹介いたしましたとおり、国連ハビタットは、これまでの戦争や経済制裁、またその後の略奪等によって甚大な被害を受けたイラク市民の住宅や学校、そして電気・上下水道・ごみ処理施設などの生活インフラの再建復興に取り組んでおります。現在は、初等教育施設を修復する「学校再建事業」、技術系大学など高等教育機関を修復する「教育施設再建事業」、そして住宅を再建する「コミュニティ再建事業」を行っており、まもなく4つめの事業として、孤児院     の再建やゴミ処理施設などの修復を行う
「生活インフラ・コミュニティ再建事業」をスタートする予定です。特に「コミュニティ再建事業」では、日本政府の支援を得て、バグダッド、サマーワ、キルクークの3都市において、貧困層や戦争で夫を失った世帯、あるいは大家族を中心に住宅の再建に取り組んでおります。今号では、その中から、サマーワのイスカン集合住宅とバグダッドのマグリブ地区における住宅再建事業の様子をご紹介します。
         
         
 
   
     
  サマーワ市中心部から少し西に位置するイスカン集合住宅は、1970年代に地方公務員用の住宅として建設されました。鉄筋3階建てのいわゆる団地のような構造は当時としては大変新しく、デザインも斬新だったそうですが、サマーワは戦争の被害こそ少なかったものの、旧フセイン政権下ではインフラの整備が遅れ、その後の西側諸国からの経済制裁の打撃を大きく受けた街です。この集合住宅も、建設以来一度も修理や再塗装が施されず、窓ガラスや      
           
                 

電気が壊れたままだったり、壁の塗装やコンクリートが剥がれたり、共用の階段のコンクリートが崩れるなどしていました。また、もともと給水システムが設置されておらず、戸別に給水ポンプを敷設して使用している世帯以外は、日常の水の利用にも大変な苦労をしていました。

 

      ハサンさんの家族は、ご夫婦と子ども4人との計6人暮らしです。子どもたちは元気盛りの7歳、4歳、2歳と1歳です。食費をはじめ、収入に占める生活費の割合は増加する一方です。当然、住宅の修理にまではとても及びません。ハサンさんの住まいは、約30日の修復工事を経て、台所、洗面所、上下水道を中心に、清潔に、機能的に、そして何よりも安全に生まれ変わりました。ハサンさんは、話してくれました。「10年前からこの集合住宅に住んでいますが、水道設備がないので毎日水を汲みに行かねばならず、またトイレもいつも故障していました。それでも私たちには住まいがあるだけでも、まだ良いほうだと思ってきました。でも、こうしてすっかり綺麗になってみると、以前の生活とは全く違います。本当に夢のようです。有難うございました。」7歳の長男フセインくんは、国連ハビタットが再建したばかりのアル・サワリ小学校に通っています。「教室もきれいになったし、机もイスも新しいの。校庭のガレキやガラスがなくなったから、毎日外で遊べるんだ。」家も、学校も同時に綺麗になって、大喜びです。
         
 
    国連ハビタット・サマーワ事務所の仕事は、まずこのイスカン集合住宅の住民を1軒1軒訪問し、室内外、配管・配線、塗装などの劣化状況を調べるところから始まりました。このイスカン集合住宅だけでも370世帯のイラク人家族が生活しておりますが、残念ながらサマーワ全ての人の住宅を再建することはできません。国連ハビタットは地域のコミュニティ・カウンセラーと協力して、再建工事の対象となる世帯の選定作業を行いました。つまり、どの地域、どの世帯、どの家庭がもっとも支援を必要としているかの「優先順位」を取り決めたのです。適切な住まいと認められない、危険あるいは劣悪な環境で生活している世帯、夫を戦争で失った未亡人世帯、老人や障害者を家庭内に抱える世帯、子供どもの多い世帯、などです。
その結果、この「コミュニティ再建事業」の中で修復・再建されるサマーワの住宅1,000軒が選出されました。そして、可能な限り1軒1軒の家族構成や住人たちの希望に沿って、台所の水周り、トイレなどの衛生設備、窓ガラスやドアなど細かい修復作業が行われています。

             
    国連ハビタットのコミュニティ再建事業は、バグダッドでも進められています。2005年3月現在、バグダッド市内ほぼ中央に位置するマグリブ地区で、約330軒の住宅が再建中、あるいは再建準備中です。バグダッドにおいても、            
   
           
                               
 
        サマーワと同様の方法で、対象地区の住民たちと何度も話し合いを重ねながら、最も支援を必要とする世帯が選出されました。現在、日本のニュース等でも私たちがいちばん目にすることが多いのが、首都バグダッド市の映像でしょう。バグダッドは人口560万ですが、イラク全体の人口が約2500万人ですから、全人口の約4分の1近くが集中する大都市です。鉄筋のビルが林立する一方で、都市貧困層が集中する地区もあります。国内経済の不安定な状況が続き、一層厳しい環境の中で生活している人たちも多いのが現状です。このマグリブ地区では、30uから80uの住居に平均7人家族の合計約2,300人が住んでいますが、戦争で夫を失った世帯が全体の25%を占め、また戦争で住まいや家族を失い、緊急避難的に数世帯が共同で生活をしているケースも珍しくありません。地区世帯の平均月収も約8,000円と、現在のバグダッド平均の半分にも満たないとのことです。しかも建物の多くは1920年代初めの頃に建てられており、戦争被害に加えて、既に相当の老朽化や設備の劣化が進行しています。
 

予め危険が予測される場合は、事業を一時的に中断せざるを得ないこともあります。実は、再建工事中の住宅に、ミサイルが被弾したこともあるのです。幸い、けが人はありませんでしたが…。それでも、イラク復興への第一歩は、人々に安定した住まいがあってこそ。私は、どんな復興事業よりもまず住宅の再建にとりかかることが重要だと思っています。」1920年代にコミュニティが形成されてから一度も修理や国際支援が入ったことのないこのマグリブ地区の住民たちは、事業開始当初は、「本当に日本と国連ハビタットが私たちの家を再建してくれるのだろうか?」と懐疑的ですらあったそうです。しかし、ラフィッドさんを始めとするハビタットのスタッフの復興にかける決意と意気込みが通じ、今では、支援を受ける側の住宅の住民たちも、積極的に再建作業に参加しています。その中の1人、マグリブ地区の家に生まれ育ったアマルさんは55歳。奥さんと、6人の子どもと一緒です。「今まで、私たちの家は崩壊寸前でした。戦争中の空爆の衝撃で、天井や壁の粘土は剥がれ落ち、毎日毎日、天井が落ちるのではないかと不安の中で生活していました。また、その隙間から、さそりや蛇が入ってきたりして大変怖い思いもしていました。でも、とてもそれを修理するだけの経済的なゆとりはありませんでした。」アマルさんは、天井や壁の工事が行われている間、自分でドアや残りの壁にペンキを塗るなどの作業に参加したそうです。「こんなに本格的な修復をしていただいて、これからも住み続けることができるのは、とても幸せだと思っています。」
最後に、国連ハビタットの監督の下でこの地区の再建工事を請け負った、バグダッドの建設会社のアミン社長が話してくれました。「この事業は、規模としては決して大きいものではありません。
       

バグダッドで再建事業を行う上で、一番の問題点は治安です。皆さんもご存知のように、現在も市民の安全を脅かす事件や事故が多発しています。            
        再建対象住宅の劣化状況を見極めるアセスメント作業、地域住民を集めての説明会、イラク政府やバグダッド市当局との協議、いずれにおいても市民、工事の業者やスタッフの安全の確保に細心の注意を払いながら事業を行っていますので、なかなか予定通りに進まないこともあります。            
        資材を運搬する道路が、事前の予告なく頻繁に閉鎖されたりもします。国連ハビタット・バグダッド事務所の責任者であり、建築士でもあるラフィッドさんは言います。「たしかに危険な状況に遭遇することはあります。暗くなってからの作業、あるいはあまり大規模な人目を引く作業も危険です。    
 
     
 
  でも、私はこの事業を通して、多くのイラク人を雇用することができました。多くのイラクの業者からセメントや資材を購入することができました。何より、こうして自分の家が生まれ変わって喜ぶイラク人の顔に接することができました。私たちの手で、イラク人の生活水準を向上し、より良い国づくりに貢献していることを誇りに思います。」ここでも、国連ハビタットの目指す「イラクの人々の手による自立支援」が、少しずつではありますが実現していることを実感する、大変嬉しく頼もしいコメントです。