イラクとハビタット〜 その4

   
また教育施設再建事業では、大学・専門学校など高等教育機関を中心に30校以上の学校の再建が完了しています。これらの事業につきましては、既に「まちづくり通信イラク特集号」
@〜B号にご紹介してまいりましたので、今号では最新の事業である生活インフラ再建事業の様子をご紹介します。
 
イラクとハビタット
現在イラクで行われている再建事業は、イラクの戦後復興を支援するものです。しかし、イラクの人々やまちが受けた被害は、爆撃等直接の戦争被害ばかりではありません。長い年月に及ぶ独裁政権と西側諸国の実施した経済制裁は、地方の都市や農村などを中心にインフラ設備や公共施設の著しい劣化・老朽化を招き、また戦後各地で横行した略奪行為によって、多くの施設が甚大な被害を受けました。

イラクの復興支援の概要は、2003年5月にイラク戦争の終結後に行われた世界銀行・国連による共同アセスメントの結果に基づいて決定されました。アセスメントでは、地域別・分野別に被害の状況や支援の必要性が報告され、それに対応して日本をはじめ多くの国が支援を表明しました。支援の重複や偏りが発生しないよう、多くの国連機関や国際援助機関の間で、それぞれの専門分野や活動範囲の調整を行い、その結果、国連ハビタットは教育と文化、水と衛生、住宅とインフラ、貧困と難民などの分野を担当することになりました。


具体的な事業(プロジェクト)としては、@学校再建事業、Aコミュニティ再建事業、B教育施設再建事業、そしてC生活インフラ再建事業の4事業を日本政府の支援によって実施し
ています。学校再建事業については、バグダッド、サマーワなどイラク4都市において、200の幼稚園・小中学校がすでに再建を完了し、コミュニティ再建事業では3都市において1,000軒以上の住宅の再建を続けております。
     
   
 
  インフラの回復を望むイラクの人びと
「生活インフラ再建事業」では、人が健康で安全な生活を送るために必要な、水や電気のような基本インフラの再建を目指し、中でも上下水道、汚水処理施設、給水施設、ゴミ処理施設などの生活インフラ施設を多数再建することを目的としています。かつてイラク全土では水道(井戸水や簡易システムを含む)システムが整備されており、安全な飲料水の普及率は都市部では95%、農村部でも75%に達していました。
 
   
約30年続いた前政権の間に、インフラへの公共投資は縮小・停滞し、特に地方自治体による公共サービスは著しく低下しました。学校、病院、保健所、道路、橋などの施設の著しい劣化・老朽化はもとより、水道料金や電気料金などの公共料金の徴収システムも機能しなくなりました。多くの地域で飲料水の供給量は戦前比の約半分にまで低下し、特に農村部での安全な飲料水の供給率は46%にまで低下しました。下水道については、戦前からバグダッド市以外では整備されていませんでしたが、戦後バグダッドの公共サービスの低下により、下水が河川に不法投棄されるようになり、現在イラク全土における河川汚染の約75%がバグダッドでの不法投棄に原因があると報告されています。

2006年に実施された国内世論調査において、イラクの人々の「最大の関心事」および「イラク新政府に望むこと」という問いに対して、いずれも「治安の回復」の次に「インフラの回復」を挙げています。インフラの早期回復は、イラク復興事業の中でもイラク政府、自治体、市民の要望が大変大きい、優先順位の高い事業なのです。


中でも、水は絶対的に供給量が不足しており、また水質の悪化が慢性的な内臓疾患や乳幼児の高い死亡率の原因となっていることも人々の間で充分認識されていました。したがって、安全な水がいつでも確保できる、自宅の水道の蛇口を開けば、いつでも水が出るということが、イラクの人々の切実な願いでした。

国連ハビタットは、この2つの県における事業を地区や施設ごとに区切り、公開入札を行った上で、合計約20社の地元業者へ工事を発注しました。これは、できる限り多くの業者へ事業の機会を提供したいと考えたからです。先述のとおり、特に公共インフラの劣化や故障した状態が続くイラク南部では、水道関連の配管・設置・修理などの技術を有する技術者や職人が圧倒的に不足しています。多くの事業者・労働者を雇用することによって、地元経済の活性化を図り、雇用機会を拡大することももちろん重要ですが、この分野での技術者の早期育成を行い、水道施設の修理やメンテナンスを持続的に担う業者をなるべく多く確保することが目的です。前号のイラク通信でも触れましたが、国連ハビタットのイラクにおける支援活動もいずれ完了します。そのために、私たちはいかに足跡の目立たない支援活動を行うかを常に考慮して事業を行っています。資材を国内で調達し、地元の業者による工事を行い、地元の技術者の手による修理を重ねて、長い年月の使用に耐える施設の運営を続けて欲しい、そのためにこのような工事の手法や業者選定を行っているのです。

  水が出た!
この事業の中で国連ハビタットが手掛けたのは、南部のバスラとムサンナーの2つの県における様々な水道設備関連の建設・再建工事です。まず国連ハビタットの技術職員が既存施設の劣化・故障あるいは戦争被害の状況を見極めるアセスメントを行い、両県の水道局や自治体、市議会と協議を重ね、近隣コミュニティの状況や利用者人口などを考慮しながら、事業実施場所を決定しました。バスラ県では、副知事も同席のもとで工事の説明が開催され、対象地域の住民は工事の決定を大変喜びました。

 
家の面積は50-90uとある程度の広さが確保されているように見えますが、実際は一軒の住宅に3世帯、4世帯の貧困家族が同居していることも珍しくありません。国連ハビタットの職員はこれら住宅を一軒ずつ訪問し、居住者の数や年齢構成、障害者のいる世帯では、どのような障害でどのような設備が求められているか、ヒアリング調査を行いました。今回受益者となった人々は、当初は、自分たちの家が再建されるなど到底信じられないという様子でした。しかし、職員が住宅内部のアセスメントや測量を開始すると、住民はみな積極的に話し合いに参加し、嬉しそうに工事を見守り、中には手伝ったりする人もいました。
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さて、日本でもよく知られているムサンナー県サマーワ市や近接するルメイサ市では、重要な水資源であるユーフラテス川の汚染による飲料水の不足がインフラ回復の中でも大きな課題でした。市街地の大部分では水道設備は整備されておりましたが、浄水施設での浄水処理能力が不足しており、給水時間が朝8時から12時までと1日数時間に限られていました。浄水施設の再建、水道管の埋設および配管保護のための道路の舗装工事などが行われ、その結果、午前中の給水に加えて、さらに夜の午後6時から8時まで水道の使用が可能になるなど、まだ段階的ではありますが、既に大きな効果が得られています。

これまでに2つの県における都市部8地域で、水道関連工事を行い、合計65万人の飲料水環境が改善したことになります。

インフラを家庭につなぐ
生活インフラ再建事業では、浄水施設や水道管の埋設など基幹設備の再建と同時に、住宅の水道・衛生設備の改善を中心とした住宅再建事業も行っており、水道管を個々の住宅に接続し、洗面台や蛇口、トイレの設置などを行っています。

住まいの復興は人々の生活や経済活動の基本であり、心の復興であるとも言えます。本事業では、インフラ再建を実施している都市を中心に、バスラ、サマーワ、バグダッド、ナジャフにおける貧困世帯、弱者や高齢者を抱える世帯などを中心に合計2,000軒近くの住宅の再建に取り組んでおります。貧困世帯の多くは自力での復興が困難であり、また支援の手が届きづらい場合が多く、水や衛生設備が全くない、あるいは故障したまま修理が施されない家がほとんどです。また平均的な家の面積は50-90uとある程度の広さが確保されているように見えますが、実際は一軒の住宅に3世帯、4世帯の貧困家族が同居していることも珍しくありません。国連ハビタットの職員はこれら住宅を一軒ずつ訪問し、居住者の数や年齢構成、障害者のいる世帯では、どのような障害でどのような設備が求められているか、ヒアリング調査を行いました。今回受益者となった人々は、当初は、自分たちの家が再建されるなど到底信じられないという様子でした。しかし、職員が住宅内部のアセスメントや測量を開始すると、住民はみな積極的に話し合いに参加し、嬉しそうに工事を見守り、中には手伝ったりする人もいました。

本来であれば住宅内部の工事は1世帯あたり7日-10日ほどで完了するところですが、バグダッドやバスラなどの都心の貧困地区での工事は大変難しく、外出禁止令や交通規制、あるいは資材調達の困難などによって、予定が大幅に遅れることもあります。しかし、浄水施設から給水された飲料水が水道管を通って各家庭の蛇口にまで届いた時に初めて、人々にとってのインフラの回復は実現します。インフラの回復を何より望むイラクの人々のためのこの事業は、まだまだ続きます。

本来であれば住宅内部の工事は1世帯あたり7日-10日ほどで完了するところですが、バグダッドやバスラなどの都心の貧困地区での工事は大変難しく、外出禁止令や交通規制、あるいは資材調達の困難などによって、予定が大幅に遅れることもあります。しかし、浄水施設から給水された飲料水が水道管を通って各家庭の蛇口にまで届いた時に初めて、人々にとってのインフラの回復は実現します。インフラの回復を何より望むイラクの人々のためのこの事業は、まだまだ続きます。
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2007年国連ハビタット イベント情報!
国連ハビタットアジア太平洋事務所(福岡)は、2007年に事務所開設10周年を迎えます。これを記念して、今年は様々な記念行事・イベント等が開催される予定です。その他開催予定の会議・シンポジウムと合わせて、是非ご参加ください。イベント・会議の内容やお申し込み方法は、随時ホームページでご案内しております。(http://www.fukuoka.unhabitat.org)

● 6月25-26日(月・火)
女性にやさしい持続可能なまちづくり
専門家会議(福岡)
● 8月1日(水)
アジア都市ジャーナリスト会議「持続可能な都市生活」&国連ハビタットアジア太平洋事務所(福岡)開設10周年記念イベント
● 9月4日(火)
国連ハビタットアジア太平洋事務所(福岡)
開設10周年記念シンポジウム
● 10月1日(月)
世界ハビタット・デー 2007 シンポジウム
(福岡)子どもの絵画コンクール

 
 
編集後記
  国連ハビタットによるイラク復興支援事業を2004年春に開始してから、3年が経過しようとしています。この号の文頭でご紹介したように、既に多数の幼稚園・小中学校、高校や専門学校、大学の再建を完了しております。また、特殊学校、障害者のための施設、孤児や高齢者のための施設、給水設備や下水設備、ゴミ処理施設などの建設・再建も進められております。イラク国内の状況は大変厳しく、繰り返し申し上げておりますとおり、事業を担当する業者や労働者、受益者である一般市民や学生・児童たち、そして私どもの職員の安全を確保しながら、緊張と不安の中で事業を進めております。治安が悪化し、不安定な情勢が続く中で、国内資材や部品調達の困難、交通規制、外出禁止令、業者の辞退など、様々な事由により事業が遅延あるいは一時中断することもあります。それでも、蛇口から出る水に喜ぶ子ども達、住まいが再建されて声を上げて喜ぶイラクの人々と日々向き合いながら、復興に向かう歩みを決して止めてはいけないと私たちは意を新たにしています。
国連ハビタット イラク担当専門官 星野幸代

 
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